自らの恐怖との葛藤 ブラックスワン [映画 le cinema]
白鳥の湖は、バレエの中でも大変有名である一方で、主役は、白鳥という純粋と黒鳥という誘惑を演じなければならないという大変難しい作品でもある。この作品の主役に選ばれようとするのが、主人公ニナ。ニナは、元ダンサーの母親の献身的な寵愛と期待に支えられている。ニナもそれに応えようとする。プリンシパルのベスが、引退を決め、次の作品のプリンシパルに選ばれようとするシティバレエ団のダンサーたち。この映画の中でもダンサーの一人が言っているし、最近は多くのカンパニーが置かれている実情はそうだが、「バレエを観る人なんかいない」。有名カンパニーは、有力者の力があってこそ今なりたっている。そんな現実もこの作品では描いている一方で、ダンサーの彼女(あるいは彼ら)たちの主役への競争意識は強い。それは、単なるお稽古ごとの一つから職業として選んだ彼らの意識の現れである。だが、世間で注目されるダンサーというのは、世界に数えるくらいしかいないし、それを長年維持し続けるというのは並大抵ではない。このブラックスワンという作品は、ニナの白鳥の湖というバレエの主役を射止めたいという気持ちから、それを勝ち取ってからの苦悩を描いている。ニナが主役を芸術監督に必死に取り入って射止めたというのが余り伝わってこない。芸術監督ルロワは、ニナの実力を認めてはいる。しかし、そこまでの意志決定過程があやふやな印象になってしまうため、少し物足りない。白鳥の湖の主役に抜擢されたニナは、主役を演じることの次第に重責を追っていく。これが、白鳥の湖、プリンシパルになること、プリンシパルであり続けることの重責。
ニナは、次第にこれまで以上に強迫性障害様の症状が増し、さらには幻覚や妄想に至る統合失調症のような症状も表出してくる。観ている側からしても、これが現実なのかあるいは、ニナのみている幻覚や妄想=虚構なのかが判別しづらくなる。それは、彼女が本番の舞台に上がるまでと本番舞台に“病を押してまで”上がり、白鳥を演じ、次の黒鳥という欲望を演じた時に最高潮に達する。虚構と現実、果たして私たちはニナのどちらを体感しているのか。最後のシーンは白鳥と黒鳥という二面性を演じきったニナの果てた姿が無理矢理現実に引き戻したような強引なセッティングではあるけれど、久しぶりに2時間の精神的に緊迫した映画でした。それは、サスペンスというよりも、ヒッチコックのサイコを観ている感覚に近いかもしれません。ナタリー・ポートマンも好演しています。体重を9kg落とし、バレエダンサーを直球で演じています。
コメント 0