自閉症遺伝子 [本 livre]
この本はフランスにおける自閉症遺伝子検査ビジネスとその検査会社と遺伝学者との”闘争”記である。近年,日本においても遺伝子検査・診断ビジネスが”横行”しつつあり,国や学会も問題として対策を取る方向だ。また,インターネットでも様々な遺伝子に関する叙述が流布している。この本は,フランスにおける,という前提がつく。また,フランスらしく自閉症に精神分析(ジャック・ラカンほか)の影響もあるという。日本とは少し違う医療制度と現状ではあるが,日本でも遺伝子検査,遺伝子診断が,ビジネスとして大きくなっていることを考慮すると,この本に書かれた”闘争”記は自閉症と自閉症スペクトラム障害を切り口として興味深い本である。
掏摸 中村文則 [本 livre]
とても軽快に読める作品。
一級の掏摸師が、掏摸を通りして人の諸相を描く。
章立てがとても短くて、それが読みやすさと掏摸行為という1秒1秒を刻々と表現する描写、脅迫的なスピード感を生むことにつながっている。
おもしろいのは、主人公自身を内の表現だと、「僕」と表現し、外(他人と会話するななど)では、「俺」と表現すること。これで、「俺」と表現することで、対外的には強さを表現し、内在的には、「僕」と表現することによって、弱さを表現しているように思える。
たびたび文章のなかにドストエフスキーが現れる。ラスコリニコフの精神の呵責を描いた「罪と罰」とこの作品は少なからずリンクされる部分はある。しかし、「罪と罰」のあの描き方を体感してしまった人にとっては、この作品は物足りなさを感じてしまうだろう。読みすさ、スピード感を備えたこの「掏摸」は、普段の私たちでは知り得ないアングラな世界に誘ってくれる。サリンジャー [本 livre]
J.D.サリンジャー。謎の作家です。Catcher in the Rye 、9 stories 読んで、さらに、なぜか世の中から忽然と姿を消してしまったような生活を送るようになった、とくれば、謎が謎を呼ぶ作家です。その存在が明らかになったのは、彼自身の死によって、というなんとも、サリンジャーという作家らしさがありますね。金庫の中に、新作があるとか噂がありますが、どうなのでしょう。再びサリンジャーの作品が、書店に平積みされることは間違いなし!?